このページの要点
- 霊感等による知見を用いて、重大な不利益を避けるには契約が必要不可欠だと告げる勧誘は取消しの対象(消費者契約法4条3項8号)。
- 取消しの期間は追認できる時から3年、契約から10年(同法7条1項)。広告やSNSの投稿も勧誘に当たり得る。
- 契約書の非保証条項は、勧誘の過程の問題を打ち消せない。規約・台本・広告・記録の四層で備える。
- 寄附や献金の名目にしても規制を免れない。法人等の寄附勧誘は別の法律でも禁止されている。
最初に結論:霊感を使うことが問題なのではない。不安と契約を結び付けることが問題
占いやスピリチュアルのサービスにとって、霊感や特別な能力に言及すること自体は、サービスの中身です。問題とされるのは、その能力を根拠に、「このままでは重大な不利益を回避できない」と不安をあおり、その不利益を避けるには、この契約が必要不可欠だと告げることです。鑑定の中で、「このままでは不幸が続く」「継続のセッションを受けなければ避けられない」と言って、追加の鑑定や高額のコースの契約を勧めると、お客様は後から、その契約を取り消せる場合があります。
この規定は、事業者を取り締まるためだけのものではなく、占い師自身が日々の会話で引くべき線を教えるものでもあります。事務所が占い・スピリチュアル系の規約や契約書を点検する際、この条文への備えは、規約の条項、勧誘の台本、広告の表現、そして鑑定者自身の発言ルールの四層で考えます。条項だけを整えても、会話で言ってしまえば、取消しは防げないからです。
条文の要点
- 消費者契約法4条3項8号霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、消費者またはその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、または将来生じ得る重大な不利益を回避できないとの不安をあおり、またはそのような不安を抱いていることに乗じて、その回避のためには契約の締結が必要不可欠である旨を告げること。
- 同法7条1項取消権は、追認できる時から1年間行わないときは時効により消滅する。ただし、4条3項8号に係る取消権は3年間。契約の締結の時から5年(同号は10年)を経過したときも同様。
- 同法4条6項取消しは、善意でかつ過失がない第三者には対抗できない。
- 法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律4条6号寄附の勧誘においても、同様の霊感等による知見を用いた告知で個人を困惑させることを禁止する。
期間の長さは、通常の取消し(1年・5年)と比べて大きく異なります。令和4年12月に成立した消費者契約法の改正(令和4年法律第99号)により、霊感等による告知の取消権の行使期間が延長されました。
要件を分けて読む:どこが問題になるのか
条文は長いため、要素に分けて読むと、会話のどこが危ういのかが見えやすくなります。
4条3項8号の要素と、占いの場面での見え方
| 要素 | 意味 | 占いの場面での例 |
|---|---|---|
| 霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見 | 科学的に確かめることが難しい力や知識を根拠にしていること | 霊視、チャネリング、波動、前世、運気、カルマ、守護霊などを根拠にした説明 |
| 生命、身体、財産その他の重要な事項について | 重要な利益に関わる話であること | 健康、家族の安全、仕事や財産、人間関係の破綻など |
| そのままでは現在生じ、または将来生じ得る重大な不利益を回避できない | 放置すると悪いことが起きる、すでに起きている、という説明 | 「今の不調は先祖の因縁」「このままでは家族が不幸になる」 |
| 不安をあおり、またはそのような不安を抱いていることに乗じて | お客様の不安を強めること、または、すでにある不安を利用すること | 相談者の怖れを聞き出した後で、それを材料に話を進める |
| その回避のためには契約を締結することが必要不可欠である旨を告げる | 契約しなければ避けられない、と結び付けること | 「この祈祷(コース、グッズ)を受けなければ、悪い状況は変わらない」 |
「不安に乗じて」も含まれる点が重要です。お客様がもともと強い不安を抱えている場合、事業者がそれを材料に契約を勧めると、あおる行為がなくても対象になります。
取消しの根拠になる「勧誘」は、個別のセッションでの発言だけを指しません。最高裁は、事業者が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであっても、個別の消費者の意思形成に直接影響を与える場合は、消費者契約法にいう「勧誘」にあたり得ると判断しています(最判平成29年1月24日・クロレラチラシ配布差止等請求事件、民集71巻1号1頁)。広告、ランディングページ、SNSの投稿、メールマガジン、LINEのメッセージも、内容によっては勧誘になります。
契約を取り消したときの効果は、契約が初めから無効だったことになる、ということです。お客様は、支払った代金の返還を求めることができます。取消しをした消費者が返還する範囲は、取消しの原因を知らなかったときは、現に利益を受けている限度に限られます(消費者契約法6条の2)。そのため、提供した役務の分を当然に差し引けるとは限りません。契約書に「返金しない」と書いてあっても、取消しが認められれば、返金の義務を負います。取消しの意思表示の期間が、通常より長い3年・10年である点も、事業者の側にとっては大きな負担です。
問題になりやすい言い方と、書き換えの例
条文に当たるかどうかは、最終的には個別の事情で判断されます。それでも、会話の癖として、不安と契約を結び付ける言い方が出やすい場面があります。次の表は、占い、ヒーリング、開運講座の現場で見直したい言い方を整理したものです。
不安と契約を結び付けない言い方
不安をあおる
不利益の予告を、契約の必要性につなげないことが基本です。鑑定の見立てと、有料の提案を、別々の話として扱います。
契約を必要不可欠と告げる
「受けなければ変わらない」は、契約が必要不可欠だと告げる典型です。提案はするが、必要性は断定しない、という書き方にします。
現在の不調と結び付ける
現に生じている不利益と講座の購入を結び付けるのは、この条文の対象です。体調の話には、効果の約束を持ち込まず、医療を優先するように伝えます。
継続や追加の勧め
継続を勧めるときの理由を、お客様の不安に置かないようにします。続けないことの不利益を告げず、選択肢として示します。
台本や発言ルールに落とし込むときは、禁止する言い回しの一覧に加えて、「代わりにどう言うか」を併記すると、現場で使われます。
規約・台本・広告に落とし込む:四層の備え
備えは、次の四つの層に分けて考えると漏れがなくなります。それぞれの層で、できることとできないことがあります。
四層の備え
| 層 | 内容 | できること | できないこと |
|---|---|---|---|
| 規約の条項 | 勧誘をしない旨、鑑定結果を理由に購入や寄附を求めない旨を置く | 方針の表明、説明の材料、鑑定者の行動基準 | 勧誘の場面での発言を打ち消すこと |
| 勧誘の台本・発言ルール | 禁止する言い回しと、代わりの言い方を決める | 実際の会話の統一 | 個々の鑑定者の逸脱を完全に防ぐこと |
| 広告・LP・SNS | 不安をあおる表現、断定的な成果の表現を使わない | 広告による勧誘の取消しの根拠を減らす | 個別の会話の内容の管理 |
| 記録 | 勧誘の台本、案内文、申込みの経緯を保存する | 後から勧誘の内容を説明すること | 不適切な勧誘をなかったことにすること |
四層のうち、規約は一番手軽ですが、一番効果が限られます。残りの三つが運用で、取消しの主張に対する実質的な備えになります。
勧誘に関する条文例(鑑定の規約)
1運営者は、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、利用者又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その不利益を回避するためには個別サービスの追加の申込みその他の契約の締結が必要不可欠である旨を告げる方法による勧誘をしない。
2運営者は、鑑定の結果を理由として、利用者に対し、物品の購入、寄附その他の金銭の支出を求めない。
3本規約のいかなる定めも、消費者契約法第4条の規定による取消しその他の法令に基づく利用者の権利の行使を妨げるものではない。
第3項は、取消しの権利が規約の定めで制限されないことを確認する条項です。取消しを防ぐ条項ではなく、取消しの権利を認めたうえで、勧誘の方針を示す条項として働きます。
事務所が、スピリチュアルな視点を取り入れた個別支援サービスの規約を改訂した際は、サービスの性質の条項に、「スピリチュアルな視点に言及する場合であっても、超自然的な力、霊感その他の合理的な実証が困難な事象による特定の結果を保証せず、利用者の不安をあおり、または不安に乗じて、利用または追加の契約を勧誘しない」旨を新たに加えました。同じ趣旨を利用契約書の表明・保証の条にも置き、利用者が「超自然的な力や霊感による結果は保証されないことを理解している」ことを確認する形にしています。あわせて、提供しない業務として、占い、祈祷、除霊、開運商品の販売その他の宗教的行為を明記しました。サービスの内容を、霊感の行使ではなく、聴き取りと整理、行動計画の支援にとどめるという線を、条文の側からも引いたものです。
非保証の条項と、取消しを防げない限界
契約書に「超自然的な力による結果は保証しません」と書いても、取消しの主張を防ぐことはできません。この条項が扱うのは、結果が出なかったときの債務不履行の主張であり、取消しが扱うのは、契約の意思表示がされた過程です。別々の論点です。契約書の非保証条項は、結果の約束がなかったことの確認にはなりますが、勧誘の場面で不安をあおったことを打ち消す効力は持ちません。
また、取消しの要件を満たさなくても、公序良俗に反する契約は無効になります(民法90条)。人の不安につけ込み、著しく高額な対価を得る契約や、生活の維持を困難にするような支払を求める契約は、取消しとは別に、無効の主張を受けるおそれがあります。契約書に「同意した」旨の記載があっても、公序良俗に反する部分の効力は認められません。
非保証の条項で防げること、防げないこと
| 主張 | 非保証の条項の効果 |
|---|---|
| 「効果が出なかったので、債務不履行だ」 | 約束した内容に結果の実現は含まれない、という説明の根拠になる |
| 「勧誘で不安をあおられたので、契約を取り消す」 | 効果なし。勧誘の過程の問題であり、契約書の文言で打ち消せない |
| 「広告に書いてあった成果と違う」 | 広告が勧誘にあたる場合、契約書の非保証だけでは足りない |
| 「高額すぎて公序良俗に反する」 | 効果なし。契約の内容の相当性は、別に判断される |
契約書に頼らず、勧誘と広告の側を整えることが、取消しへの現実的な備えです。
運用を点検する手順:台本、広告、記録を順に見る
備えを実行に移すときは、手順を決めて、順番に点検します。会話の癖は本人が気づきにくいため、第三者の目で確かめる工程を入れると効果的です。
点検の手順
- 1 勧誘の流れを書き出す無料の接点(SNS、無料相談、メールマガジン)から、有料の鑑定、コース、物品の販売へ、お客様がどう進むかを、実際の順に書き出します。提案をする場面を特定します。
- 2 発言と文面を集める鑑定の台本、LINEの定型文、案内のメール、LPの文章、SNSの投稿を集めます。録音がある場合は、提案の部分を確認します。
- 3 結び付きを探す「不利益の予告」と「契約や購入の必要性」が、同じ文の中、同じ画面の中、連続する会話の中に並んでいないかを探します。
- 4 書き換えと禁止の一覧を作る見つかった言い回しを一覧にして、代わりの言い方を併記します。鑑定者全員で共有します。
- 5 記録を残す点検した日、見直した文面、保存した資料を記録します。以後、新しい文面を作るたびに同じ確認を行います。
点検は一度で終わりません。キャンペーンの案内や、新しいサービスを始めるときに、同じ手順を繰り返します。
台本・発言の点検で使う問い
- この言葉は、お客様の不安を材料にして、契約や購入に結び付けていませんか。不安の材料と契約の話が、連続していることが危険な形です。切り離すか、別の機会に回します。
- お客様が「考えたい」と言ったとき、待てますか。迷う時間を奪う運用は、困惑させる勧誘と評価されやすくなります。
- 断った人に対して、その後の態度や連絡が変わっていませんか。断ることで不利益を受けない運用にします。
寄附・献金の形をとる場合:別の法律も関わる
占い師やスピリチュアルの事業者が、サービスの対価ではなく、「寄附」「献金」「お布施」といった形で金銭を受け取る場合があります。法人等(法人、または代表者の定めのある団体)が寄附を勧誘する場合は、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律が適用されます。この法律は、寄附の勧誘で、個人の自由な意思を抑圧しないこと、寄附により個人や扶養義務のある親族の生活の維持を困難にしないことなどに配慮する義務を課し(3条)、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、重大な不利益を回避できない旨の不安をあおるなどして困惑させる勧誘を禁止しています(4条)。借入れや、居住用の不動産の処分などで寄附の資金を調達させることも禁止されています(5条)。
禁止行為や配慮義務に違反した場合の勧告や命令(6条・7条)は、法人等に対するものです。この法律の対象は「法人等」(法人、または代表者もしくは管理人の定めのある社団・財団)で、個人事業主が個人として勧誘する場合は、法律上の「法人等」にあたりません。ただ、寄附の形にすれば消費者契約法の規律から外れるわけではなく、取引の実態によっては、消費者契約法の適用が問題になります。サービスの対価を寄附と呼び換えることは、避けるべきです。
公表資料が示す「型」と、自分の運用を照らし合わせる
国民生活センターは、令和2年11月26日に、占いサイトに関するトラブルについて注意を呼びかけました。占いやアプリに関する相談が年間1,000件以上寄せられていること、無料のつもりが有料に誘導されること、自分だけに向けられた言葉と思わせるメッセージで関心を引くこと、支払が高額化すること、やめたくても引き止められることなどが、注意すべき点として整理されています。同じ資料では、困ったときは消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談するよう呼びかけています。
この型と自分の運用の重なりを確かめるには、次の問いが有効です。無料のやり取りから、有料の申込みへ、どのような流れで進んでいるか。鑑定者がお客様の不安を聞き出した後に、有料の提案へ話が進んでいないか。やめたいと言われたときに、引き止める言葉を使っていないか。外形が重なるほど、相談を受けた側は厳しい初期姿勢で臨みます。
霊感等による告知への備えの点検
- 鑑定の見立てと、有料の提案を、別の話として扱う運用になっている
- 不安の予告と、契約の必要性を結び付ける言い回しを、一覧にして禁止している
- 広告、LP、SNS、メッセージに、不安をあおる表現がない
- 勧誘の台本や案内文、申込みの経緯を保存している
- 鑑定の結果を理由に購入や寄附を求めない旨を、規約に置いている
- 取消しの権利を妨げない旨を、規約に置いている
取消しの規定は、高額コースの契約だけでなく、開運グッズの販売や、養成講座の勧誘にも関わります。鑑定の規約の全体はオンライン鑑定の利用規約で扱っています。
よくあるご質問
霊感や波動といった言葉を使うこと自体が違法ですか?
違法ではありません。取消しの対象になるのは、それを根拠に、そのままでは重大な不利益を回避できないと不安をあおり、またはその不安に乗じて、回避のためには契約の締結が必要不可欠だと告げることです。言葉を使うかどうかではなく、不安と契約を結び付けているかどうかが問われます。
取消しができる期間は、どのくらいですか?
霊感等による知見を用いた告知(消費者契約法4条3項8号)の取消権は、追認できる時から3年間、契約の締結の時から10年間です(同法7条1項)。通常の取消しの1年・5年より長くなっています。
広告やSNSの投稿でも、取消しの対象になりますか?
なり得ます。最高裁は、不特定多数に向けた働きかけでも、個別の消費者の意思形成に直接影響を与える場合は、消費者契約法の「勧誘」に当たり得ると判断しています。広告やメッセージの表現も点検の対象です。
契約書に「取消しはできない」と書いておけばよいですか?
書いても効力はありません。消費者契約法に基づく取消しの権利は、契約書の定めで制限できません。むしろ、取消しの権利を妨げない旨を規約に置くほうが、説明の材料として有効です。
寄附やお布施の名目なら、規制を受けませんか?
名目で規制が外れるわけではありません。サービスの対価を寄附と呼び換えても、取引の実態によっては消費者契約法の対象になります。法人等が寄附を勧誘する場合は、寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律が、霊感等による知見を用いた告知を含めて禁止しています。
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