このページの要点
- 行うことと行わないことを積極的に定義し、医療・心理療法・法律事務を提供しないことを中核の条項にする。
- 緊急時の対応を目的としないこと、即時返信を保証しないことを書き、生命・身体の危険に備えた情報提供の例外も置く。
- 専門機関の案内は「義務」ではなく「勧めることがある」と書く。察知や判断の義務を負わない一文を添える。
- 心身の状態を理由とする中止の精算は、利用者の違反による解除と分けて、未提供部分を返金する。
最初に結論:「医療ではない」と書くだけでは足りない。危機の場面で何をしないかを先に決める
占いやスピリチュアルの相談に来る人は、悩みや不安が強い状態にあることが少なくありません。離婚や別離の後、仕事や家族の問題、孤立。そうした気持ちの中で、深夜に長いメッセージを送ってくる人もいれば、毎日のように鑑定を申し込む人もいます。ときには、「もう消えてしまいたい」といった言葉が出ることもあります。鑑定者は医療や福祉の専門家ではないことが多く、そのような場面に出会ったとき、規約に何も書かれていなければ、対応の線がどこにあるのかを誰も説明できません。
アトラス行政書士法人が、個別の相談に応じる3か月型の支援サービスの規約と契約書を点検したときも、最も大きな課題の一つはここでした。サービスは、離婚後の気持ちの立て直しを支援するものとして始まり、後にスピリチュアルな視点を取り入れた支援へと内容を移していきました。利用者が精神的に不安定な状態で申し込むことが想定される以上、通常のコーチング以上に、提供する役務の範囲、医療行為との区別、成果の非保証、緊急時に対応するサービスではないこと、利用者の状態によっては提供を拒否または中止できることを、明確にする必要がありました。このページでは、その整理を一般化して解説します。
危機・依存への対応で規約に置く6つの条項
| 条項 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| サービスの範囲 | 何を行い、何を行わないかを積極的に定義する | 医療や心理療法を提供しているという誤解を防ぐ |
| 緊急時の対応 | 緊急通報、救急対応、自殺防止、危機介入を目的としない。差し迫った危険のときは警察・消防・医療機関に連絡するよう求める | 危機介入の義務を負うという期待を生まない |
| 連絡の対応 | 返信は目安であって即時の返信や常時の待機を保証しない | 深夜や休日のメッセージに対する責任追及を防ぐ |
| 提供の中止・辞退 | 心身の状態からサービスの継続が適切でないと判断したときに、延期、中止、辞退できる。精算も決める | 専門的な対応が必要な人に、無理に提供を続けない |
| 依存・過度な連絡の抑制 | 私的な関係の要求、執拗な連絡、過度な頻度への対応 | 鑑定者の負担と、利用者の依存の双方を抑える |
| 情報提供の例外 | 生命・身体の危険があるとき、必要な範囲で関係機関に情報を提供できる。ただし、状態を観察し危険を判断する義務は負わない | 必要な場面で動けるようにしつつ、察知する義務の発生を避ける |
各条項は互いに支え合っています。たとえば、緊急時の対応を行わない旨を書いても、返信の条項が「24時間いつでも対応します」となっていれば矛盾します。
なぜ占い・スピリチュアル相談で、この問題が起きやすいのか
第一に、占いの相談は、結果の良し悪しよりも「話を聞いてもらえること」自体に価値を感じる人が多い分野です。鑑定者が親身に応じるほど、相談者は何度も連絡したくなり、頼る気持ちが強くなります。これは悪いことではありませんが、サービスとして継続的な提供をうたうと、「いつでも相談できる」という期待が膨らみます。
第二に、利用者は事業としてではなく個人として利用するため、原則として消費者契約法上の「消費者」にあたり、規約に書いたからといって、事業者に有利な内容がそのまま効力を持つわけではありません。事業者の損害賠償責任を全部免除する条項や、解約時に事業者に生ずべき平均的な損害を超える負担を課す条項は、全部または一部が無効になります(消費者契約法8条・9条)。危機の場面で「一切責任を負いません」と書くことは、まさにこの無効になりやすい書き方の典型です。
第三に、占いに対する人々の見方があります。「見てもらった結果、悪い方向に進んだ」と感じる人が、鑑定者に責任を問う場面は、現実に起こります。規約が最初から、「最終的な判断は利用者が行う」「サービスは意思決定を支援するものである」と整理していれば、その後の対話の出発点が定まります。
「医療・心理療法ではない」を、中核の条項として定義する
規約の多くには、「医師による診断や治療ではありません」といった一文が、免責条項の中に置かれています。しかし、サービス名に「カウンセリング」という語を前面に出しながら、免責条項でのみ「治療ではない」と説明する構成は、十分とは言えません。利用者によっては、カウンセリングを心理療法や精神疾患への対応に近いものとして受け取るためです。単に「医療ではない」と言うだけでなく、契約上、何を行い、何を行わないのかを積極的に示す必要があります。
サービスの範囲の書き方
提供する内容
行うことを具体的に書くと、行わないことの境が自然に見えます。結果の約束ではなく、支援の内容として定義します。
提供しない内容
医療、心理、法律の三つを分けて並べます。法的問題には、一般的な情報提供を行うことがあっても、個別の判断、交渉、書面の作成は行わないと明示します。
専門機関との関係
「案内します」と書くと、適切な専門家を選んで案内する契約上の義務を負うように読めます。勧めることがある、という書き方にします。
「案内するものとする」という表現が義務に読めることを指摘し、「推奨することがある」という構成に改めたのは、事務所が点検した複数の規約に共通する修正です。
占い、祈祷、除霊、開運商品の販売といった宗教的な行為を行わないサービスなのであれば、それも除外業務として書きます。スピリチュアルな視点を取り入れた個別支援に、サービスの内容を移した案件では、除外業務に「占い、祈祷、除霊、開運商品の販売その他の宗教的行為」を追加し、あわせて、スピリチュアルな視点に言及する場合でも、超自然的な力による特定の結果を保証せず、利用者の不安をあおって利用や追加の契約を勧誘しない旨を、サービスの性質の条項に加えました。霊感等を用いた勧誘に関する詳しい解説は霊感商法と契約の取消しにあります。
精神的な危機への対応:何をして、何をしないか
希死念慮(死にたい気持ち)、自傷や他害のおそれ、急性の症状。こうした状態にある人への対応は、鑑定者が専門的な訓練を受けていない限り、サービスの範囲を超えます。規約には、第一に、本サービスが緊急通報、救急対応、自殺防止、危機介入その他の緊急時の対応を目的としないことを書きます。第二に、利用者または第三者の生命・身体・財産に差し迫った危険があるときは、利用者自身の責任で警察、消防、医療機関などの適切な機関に速やかに連絡するよう求めます。第三に、運営者がメッセージを即時に確認し、対応する義務を負わないことを明記します。
そのうえで、必要な場面で動けるように、生命や身体に重大な危険があると合理的に判断した場合には、本人の同意の有無にかかわらず、警察、消防、医療機関、家族など必要と認める関係者に、必要な情報を提供できると書いておきます。個人情報保護法は、人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難なときは、目的外の利用(18条3項2号)や第三者への提供(27条1項2号)を、同意なしに認めています。規約にこの例外を書いておくのは、法律が認める範囲を、利用者にあらかじめ示すという意味があります。
緊急時の対応を定める条文例
1本サービスは、緊急通報、救急対応、自殺防止、危機介入その他の緊急時の対応を目的とするサービスではない。
2利用者は、自ら又は第三者の生命、身体又は財産に差し迫った危険がある場合には、自らの責任において、警察、消防、医療機関その他適切な機関へ速やかに連絡する。
3運営者は、利用者から送信されたメッセージその他の連絡について、即時に確認し、又は対応する義務を負わない。
4運営者は、利用者又は第三者の生命又は身体に重大な危険があると合理的に判断した場合には、利用者の同意の有無にかかわらず、必要な範囲で、警察、消防、医療機関、家族その他必要と認める関係者に情報を提供することができる。前項の定めは、運営者が情報を提供することができる場合を定めたものであり、運営者が利用者の心身の状態を観察し、又は危険の有無を判断する義務を負うことを意味しない。
第4項の後段が重要です。開示できる余地を持つことと、危険を察知する義務を負うことは別のことです。この一文を置くことで、必要な場面で動きながら、観察や判断の義務まで負う設計を避けられます。
この設計は、実は事務所が点検した別の相談サービスの規約でも、同じ考え方で整理しました。オンラインのカウンセリング型のサービスで、守秘義務に例外がなかった規約に、五つの例外を置いたものです。捜査関係事項照会や裁判所の文書提出命令に応じること、生命・身体への重大な危険を避けるために緊急の必要があること、外部サービスの利用に必要な範囲で取り扱わせることなどです。例外のない守秘義務は、緊急の場面で家族や医療機関に連絡することを、規約違反にしてしまいます。反対に、例外を置いたうえで「危険の有無を判断する義務は負わない」と書くことで、サービスの方針と必要な場面での行動の両立がはかれました。守秘義務の詳しい設計は占い相談の個人情報と守秘で解説します。
連絡の頻度と時間帯:即時返信を約束しない
メッセージで相談を受けるサービスは、「いつでも相談できる」と受け取られがちです。規約には、受け付けは年中無休でも、即時の返信、常時の待機、リアルタイムの継続的な対話は保証しないことを書き、返信は「原則として受信後〇時間以内に返信するよう努める」という目安にとどめます。努力する旨にとどめることで、返信が遅れたときに債務不履行と評価されることを避けつつ、利用者に対応の見込みを示せます。
メッセージ相談の規定で決めること
| 項目 | 決め方の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 受付 | 期間中は年中無休で受け付ける | 受け付けることと、対応することを分けて書く |
| 返信の目安 | 原則として受信後一定時間内に返信するよう努める | 「必ず返信する」とは書かない。目安を超えた場合の効果(返金など)も書かない |
| 量の調整 | 過度に大量または連続するメッセージは、送り方の調整を求め、次回のセッションで回答できる | 相談の補助であって、自立を支援する位置づけであることを説明する |
| 対象外の内容 | 法律相談、医学的診断、即時返信の強要、攻撃的な言動、同じ内容の際限のない繰り返し | 「運営者が不適切と判断した内容」とだけ書かない。列挙したものに準じる内容に絞る |
| 方法の変更 | 受領が難しい形式や容量のデータは、送信方法の変更を求める | 音声・画像・動画の送信を認める場合に必要 |
返信の目安や量の調整は、利用者に不利益を課す定めではなく、サービスの範囲を示す定めです。ただし、実際の運用がこの規定と食い違うと、規約は機能しなくなります。
依存と過度な執着を、条項と運用で防ぐ
依存は、利用者にとっても鑑定者にとっても、望ましいことではありません。利用者の側から見れば、判断を自分で行う力が弱まる危険がありますし、鑑定者の側から見れば、際限のない連絡や、私的な関係の要求につながります。依存を防ぐ仕組みは、条項と運用の両方に置く必要があります。
- 継続の推奨をしない:一定期間を超えるセッションの継続を、運営者が勧めない旨を書きます。更新は自動にせず、継続を希望する場合に改めて合意して新しい契約を結びます。
- 鑑定の反復への対応:同一または類似の相談について短期間に繰り返し申込みがあり、本人が自分で考えることが望ましいと運営者が合理的に判断した場合に、理由を伝えて鑑定を辞退できる旨と、辞退した場合の返金を定めます。
- 連絡の線引き:執拗な連絡、過度な要求、私的な交際や金銭の貸借の要求、契約外の面会の要求を、禁止事項に具体的に列挙します。
- 第三者への働きかけの拒否:元の配偶者、交際相手その他の第三者への嫌がらせ、監視、違法な調査、接触への協力を求めることを禁止します。相談が特定の人物への執着に向かったときに、断る根拠になります。
- 自立の位置づけ:サービスは、利用者の自己決定と自立を支援するものであり、運営者が利用者に代わって意思決定を行うものではないことを、目的の条項に書きます。
これらは、利用者を締め出すための条項ではありません。禁止事項にあたる行為があったときに、段階を踏んで対応するための根拠です。具体的には、是正を求める、一定期間を定めても是正されなければ解除する、暴力や脅迫など重大な行為は催告なしに解除する、という二段階にします。是正が可能な違反について、直ちに契約を終了できるようにしている規約は、消費者契約法10条との関係でも不利になりやすいため、避けます。
提供の中止・辞退と、料金の精算
利用者の心身の状態を理由に、サービスの提供を延期、中止、辞退する場合、料金をどうするかを決めておかないと、運営者が全額を保持するのか、返すのかをめぐる争いになります。規約が状態を理由とする中止の根拠を置いていても、精算の定めがなければ、民法651条1項と648条3項の原則(いつでも解除でき、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求できる)で処理されることになり、結論の予測が難しくなります。
提供の中止・終了の場面ごとの精算の考え方
| 場面 | 精算の考え方 | 根拠となる考え方 |
|---|---|---|
| 運営者が利用者の心身の状態を理由に、延期・中止・辞退する | 実施していない部分に相当する料金を返金する。キャンセル料や解約手数料は請求しない | 利用者に責めのない事情による終了であり、未提供部分の対価を保持する理由がない |
| 運営者の病気や事業の終了で提供を続けられない | 未実施の回数などを基準に、未提供部分に相当する料金を返金する。理由と計算根拠を通知する | 運営者側の事情による終了。提供済みの部分のみ対価を得られる(民法648条3項の考え方) |
| 利用者が暴言や威圧を行い、中止の求めに応じない | 実施中のものは実施したものとして扱い、実施前の分はキャンセルとして段階に応じて精算する | 利用者側の事由による中止。ただし、保持できる額は平均的な損害を超えない(消費者契約法9条1項1号) |
| 利用者が中途で解約する | 提供済みの部分の対価と、算定の根拠を説明できる解約手数料を控除して返金する | 返金なしと定めても、平均的な損害を超える部分は無効 |
状態を理由とする中止の場面を、利用者の違反による解除と区別して書くのが基本です。両者を同じ条項で扱うと、本人に責めのない事情まで「返金なし」と読めてしまいます。
危機・依存への対応の点検
- サービスの範囲を、行うことと行わないことの両面で定義している
- 緊急時の対応を行わないこと、即時返信を保証しないことを明記し、販売ページの表現とも揃えている
- 生命・身体の危険があるときの情報提供の例外を置き、危険を判断する義務は負わないとも書いている
- 専門機関の案内を「義務」ではなく「勧めることがある」にしている
- 心身の状態を理由とする中止の精算を、利用者の違反による解除と分けている
- 自動更新、継続の推奨、私的な関係の要求への対応を決めている
危機や依存への備えは、規約だけでは完結しません。申込み前の確認(治療中かどうか、緊急の連絡先を持っているか)、鑑定中の対応の手順、記録の残し方まで含めて、サービスの設計になります。継続する個別セッションの運用は予約・キャンセル規定の取り決めとも、あわせて確認してください。
よくあるご質問
「当方は医療行為を行いません」と書いておけば、相談者の状態が悪化しても責任を問われませんか?
それだけでは足りません。事業者の債務不履行による損害賠償責任を全部免除する条項は、消費者契約法8条1項1号により無効です。サービスの範囲を積極的に定め、緊急時の対応を行わないこと、提供を中止できることを書いたうえで、実際の運用でも範囲を超えないことが前提になります。
相談者が「死にたい」と書いてきたとき、規約に書いておくべきことは何ですか?
緊急通報や危機介入を目的とするサービスではないこと、差し迫った危険のときは利用者自身が警察や消防、医療機関に連絡すること、運営者が即時に確認する義務を負わないことを書きます。生命や身体の危険があるときに関係機関へ必要な情報を提供できる旨も置けますが、危険を察知する義務を負う趣旨にならない書き方が必要です。
専門家への相談を勧める条項は、どう書くのが安全ですか?
「案内するものとする」と書くと、適切な専門家を選んで案内する義務を負うように読めます。「勧めることがある」「専門機関の選定や紹介は運営者の義務ではない」という書き方にします。
依存しているように見える相談者との契約を終えたいときは、どうすればよいですか?
契約の中に、更新を自動にしないこと、鑑定の反復や執拗な連絡への対応、辞退できる場合を定めておくのが前提です。終了するときは、理由を示し、未提供部分があれば返金します。禁止事項に当たる行為の是正を求める手順を踏むことも大切です。
夜間や休日のメッセージには、返信しなくてもよいですか?
規約が即時の返信を約束していなければ、直ちに義務違反にはなりません。ただし、返信の目安を書いた場合は、その運用に責任を持つ必要があります。「いつでも相談してください」という案内と規約が食い違わないようにします。
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